プロジェクトストーリー

水産
養殖餌の開発

これまでにない視点で、
食いつきの良い餌を。

プロジェクトメンバー Member

営業

T.Higashida

営業推進を担い、新しい市場への展開や事業機会の創出を推進する取締役。
社内外の関係者をつなぎながら、構想を実行に移す役割を担う。

営業

S.Uozumi

事業開発を担当し、新しいテーマの立ち上げや技術の応用展開を推進。既存の枠にとらわれず、香りの技術を軸に次の事業の芽を育てている。

プロジェクト開始のきっかけ Background

「もったいない」から始まった、
水産への挑戦。

T.Higashida

きっかけはシンプルに、「香料をつくる過程で出る、余った原料を活かせないか」ということでした。たとえば、スパイスを抽出したあとの残りや、シーズニングオイルをつくる際に出る、動物性の油や醤油などを含んだエキス。これらの捨ててしまうにはもったいない素材を、何か別の形で役に立たないかと検討していたのです。そこで、「食べものの世界で役立つ素材なら、動物の餌にも活用できるのではないか」と考えたのです。実際、これらの素材には美味しさにつながる要素が含まれているため、まずは飼料への活用を視野に入れました。

そして調べていく中で、活用先として現実的な課題を抱えていたのが水産の現場でした。養殖では餌代が大きな負担で、とくに魚粉の高騰が深刻になっている。魚粉を減らしたいのに、減らすと食いつきが落ちる――。この壁を越える方法が求められていました。それなら、素材の持ち味を魚が食べたくなる形で活かせると、養殖用の餌づくりへと挑戦することになったのです。

最も大変だったこと Challenge

水産では前例のないアプローチ。

S.Uozumi

今回の開発は、これまで水産の世界では行われてこなかったアプローチでした。私たちが挑んだのは、魚が好む香りと味を再現し、それを餌に活かすという方法です。鹿児島大学と共同で試験を行い、最初にテストしたのはマダイでした。結果は良好で、食いつきは明確に向上します。しかし「マダイは何でも食べる魚だ」という声もあり、説得力としては十分とは言えません。そこで次に選んだのが、魚の中でもグルメとされるカンパチです。そしてカンパチでもはっきりと食いつきの向上が確認できました。ここで初めて、「本当に効果がある」と胸を張って言える段階に到達したのです。

一方で、制度の壁もありました。現在の飼料に関するルールは、もともと牛や豚などの家畜を前提に整備されたものです。水産向けの想定が十分ではなく、表示や扱いについて一つひとつ確認が必要でした。社内でも理解を得ながら進める必要がありました。それでも、明確な結果を出せたことがこの挑戦を前に進めました。香りの技術が水産でも通用する。その手応えを、数字で示すことができたのです。

何を重視したか Focus

魚の食いつきを本気で考える。

S.Uozumi

最も重視したのは、「魚が本当に食べたくなる状態をつくること」でした。ただ匂いを強くするのではなく、水の中でもしっかり届き、しかも実際に口に入れたあとも違和感なく食べ続けてもらえること。その両方を満たす必要がありました。

そこで活かしたのが、これまで食品分野で培ってきた技術です。肉や醤油を加熱したときに生まれる香ばしい風味の仕組みを応用し、魚が好む成分を再現しました。この方法なら、餌を製造する際の高い温度にも耐えやすく、香りや味が変わりにくいためです。さらに、水の中でしっかり広がる形にすることにもこだわりました。油を含む成分では水の上で広がってしまい、魚に届きにくくなります。そこで原料を見直し、水に溶ける形に整えました。香りだけでなく味としても感じられる成分を活かすことで、魚が餌を口に入れて吐き出さず、そのまま食べ続ける状態を目指しました。

どのような成果があったか Outcome

新しいアプローチとして
業界で関心を集める。

T.Higashida

大学での試験結果が出たことを受け、シーフードショーに出展しました。これまで水産関係との取引はほとんどなく、どのように伝えればよいか手探りの状態でしたが、展示会という場で取り組みを発表できたことは大きな前進でした。会場では「こういうやり方は初めてだ」という声が寄せられ、香料メーカーが水産分野に挑戦している点に強い関心が集まりました。これまで天然素材を中心とした取り組みが多い中で、今回の方法は新しい角度からの提案として関心を持って受け止められました。

その後、各飼料メーカーでテストが進み、自社製品や他社製品との比較検証が行われています。抗生物質入りの餌でも良い効果が確認されたという評価もあり、当初想定していなかった広がりも見えてきました。取り組みは、試験段階から実用検討の段階へと進みつつあります。

次への挑戦 Next

「好き」と「香り」を掛け合わせて、次の価値へ。

T.Higashida

今回の取り組みは、魚が好きで、釣りが好きな私が、自分の「好き」を仕事に持ち込めたからこそ、楽しく続けられた部分があります。だから、社内のほかのメンバーも、自分の得意や興味に香りの技術を掛け合わせて、新しいテーマに挑戦していってほしい。まずはこの水産飼料の取り組みを、現場でちゃんと役に立つ形に育てる。そのうえで、次の「好き×香り」も増やしていきたいです。

S.Uozumi

水産飼料の世界は、法律も慣習も、私たちが普段扱う食品とはまったく違いました。だからこそ、ゼロから学び直し、対等に会話できるようになったこと自体が大きな経験です。今回の取り組みで感じたのは、「香りは掛け算の力になる」ということ。水産飼料に限らず、自分の知識や関心に香りを掛け合わせれば、新しい価値をつくれる。次は、現場の課題に沿って応用の幅を広げていきたいです。


取材日:2026年1月14日